場所:北斎館 開催期間:2020-11-21〜2021-01-17
葛飾北斎40歳代後半となる文化年間(1804~1818)、当時傾注した画業は「読本挿絵」の世界でした。代表的な作品として曲亭馬琴と組んだ『椿説弓張月』や『新編水滸画伝』、十返舎一九と組んだ『北畠女教訓』などが知られています。しかし、その後は絵手本や錦絵を手掛けるようになり、読本挿絵から次第に遠ざかっていきます。そんな北斎が晩年に携わった数少ない読本の一作が『釈迦御一代記図絵』(しゃかごいちだいきずえ)でした。
『釈迦御一代記図絵』は弘化2(1845)年4月、北斎が86歳の時に出版されました。山田意斎作、前北斎卍老人画による全6冊55話を収録した読本で、仏教の開祖である釈迦の生涯を描いた仏伝本になります。一般的な仏伝では釈迦が誕生し、降魔成道に至る過程を中心に構成されるのに対し、本書はその後の釈迦や弟子、そして釈迦を囲う人々の物語に重点が置かれています。釈迦の視点ではなく、多角的かつ客観的な観点で釈迦の生涯を説いた内容といえるでしょう。
北斎が描く図絵は、いままで培ってきた読本挿絵の技術が惜しみなく発揮されています。大胆な構図と繊細な描写、背景を巧みに演出した臨場感あふれる画面は、まさに後年ブームとなる劇画を彷彿とさせ、それまでの仏伝本の殻を破る新たな読本となっています。その一方、妙見信仰に厚い北斎でありながら「酔中乱筆」とあるように飲酒しながら作画に取り組んだり、自身の号である「卍」を画中に書き込むといったユーモアも組み込まれています。
本展ではあまり知られていない晩年の傑作『釈迦御一代記図絵』の挿絵を一堂にご紹介します。真正の画工を目指した北斎流の釈迦伝をどうぞご覧ください。