場所:北斎館 開催期間:2024-06-15〜2024-08-18 お問い合わせ:026-247-5206
2024年7月、新たに発行される千円札に「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」のデザインが採用されます。本作は、葛飾北斎の代表作として知られていますが、その背景には北斎のさまざまな画法を学ぼうとする探究心、己の絵を発展させようとする向上心がありました。
北斎の壮年期にあたる春朗期・宗理期(44歳まで)は、生涯において最も多くの画法を吸収した時代といえるでしょう。狩野派や土佐派、唐絵などを学び、二代目俵屋宗理として琳派を継承するなど、当時の北斎はさまざまな画法を習得し、自らの絵を進化させていきます。中でも⻄洋絵画に対する関心は高かったようで、「浮絵一ノ谷合戦坂落之図」のような透視図法(遠近法)を用いた作品が春朗の時代に発表されています。北斎は、それ以降も積極的に⻄洋絵画の画風を取り入れた作品を発表し、その作画経験が天保年間初頭の「冨嶽三十六景」をはじめとする「風景版画」の揃物を生み出す土台となっています。
「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」に見られる特徴的な波の表現も、北斎の進化において欠かすことができないポイントです。波は、北斎が何十年という歳月を費やしながら、その様相を変化させてきました。『鎮⻄八郎為朝外伝 椿説弓張月』では船や兵を飲み込むほどの連続的な波を描き、『北斎漫画』では「寄浪」「引浪」2種類の波の様相を紹介しています。「神奈川沖浪裏」に至って、波の表現はひとつの頂点を極めますが、北斎はさらに進化を求め、続く『富嶽百景』の「海上の不二」では大波のスケールを拡大した大胆な作品を発表します。その約10年後、信州小布施を訪れた北斎は、当地に上町祭屋台天井絵「男浪」「女浪」を遺しました。「怒濤図」とも称される本作は、それまでの風景画とは異なり波そのものが印象的に描かれています。北斎の波は進化して、本作でついにその極地へ至ったとも考えられる逸品です。
本展では、北斎70年の画業を回顧しつつ、進化を目指す絵師北斎の姿に迫ります。今回の新紙幣発行によって、より身近になった北斎作品の数々をお楽しみください。